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植物の水分欠乏時の成長促進機構

東大と理研、植物の水分欠乏時の成長促進機構を発見 :日本経済新聞

植物の水分欠乏時の成長促進機構の発見 -作物の乾燥や塩ストレス時の成長や収穫を向上させる技術開発への貢献に期待-

 

http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0431762_01.pdf

 


植物の水分欠乏時の成長促進機構の発見
発表のポイント
◆植物が水分欠乏ストレス時に働かせる成長促進機構を発見し、その制御機構を分子レベルで明らかにしました。

◆サブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼ(注1)とその下流で働く因子が、水分欠乏ストレス環境下において、不要なmRNAの分解を活性化して植物の成長促進に役割を果たしていることを明らかにしました。

◆作物の干ばつや塩害などの水分欠乏ストレス時の成長や収量を向上させる技術開発への貢献が期待されます。

発表概要
植物は刻々と変化する生育環境に適応して成長するため、様々な遺伝子の発現を絶えず調節しています。干ばつや塩害等による水分欠乏ストレスにさらされた植物では、植物ホルモンであるアブシシン酸(ABA、注2)が蓄積し、ABA活性化型のサブクラス III SnRK2タンパク質キナーゼを介してストレス耐性遺伝子群の発現が誘導され、耐性が獲得されることが知られています。一方、水分欠乏ストレスの初期にABAを介さずに活性化するサブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼが存在していますが、それらがどのような役割を担っているのかは不明なままでした。 
 今回、東京大学の篠崎和子教授らと理化学研究所の共同研究グループは、サブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼとその下流で働くmRNAの脱キャップ複合体(注3)の構成因子VARICOSE(VCS)が、水分欠乏ストレス環境下において不要なmRNAの分解を活性化していることを明らかにしました。サブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼが欠損した変異体ではストレス時特異的に植物の成長が阻害されることから、このmRNA分解機構はストレス時の植物の成長を促進する働きを示すことが明らかになりました。本研究の成果は、植物の水分欠乏ストレス時の成長や収穫量を向上させる新たなアプローチの提案につながると期待されます。

発表内容
植物の水不足(水分欠乏)は、干ばつ地域や塩害土壌等の不良生育環境下で引き起こされるのみならず、日照りが長く続いた時や海水を被るなどの様々な生育環境下で引き起こされます。植物にとって水は光合成に必要であり種々の細胞活動の維持に必須であるため、水分欠乏ストレスは植物の生存を脅かす最も危険な環境ストレスの一つです。水分欠乏ストレスにさらされた植物細胞では、植物ホルモンであるABAが蓄積し、ストレス耐性能を付与する遺伝子群の転写が誘導されます。共同研究グループはこれまでに、ABAによって活性化するサブクラス III  SnRK2タンパク質キナーゼとその下流で機能するAREB転写因子が、ABAを介した転写誘導において重要な役割を果たすことを明らかにしていました。SnRK2タンパク質キナーゼは高等植物では複数種存在しており、それぞれのSnRK2ファミリーが異なる機能を有していると考えられています。進化的に高等な種子植物では、水分欠乏ストレス時にABAを介さずに活性化するサブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼが見出されていますが、それらがどのような分子的・生理的機能を果たしているのかは不明なままでした。

 

今回、共同研究グループは、共免疫沈降法と質量分析計を組み合わせた手法により、サブクラス I SnRK2タンパク質キナーゼの相互作用因子の同定を試みました。その結果、mRNAの5’キャップ構造の除去に関与するmRNA脱キャップ複合体の構成因子であるVARICOSE (VCS) がサブクラス I SnRK2の新規な相互作用因子として同定されました。VCSはmRNAの脱キャップおよびmRNA分解を制御しており、水分欠乏ストレス時に複数箇所でリン酸化修飾を受けることが明らかにされています。しかし、VCSのリン酸化を制御するタンパク質キナーゼおよびそのリン酸化の生理的な意義は不明なままでした。共同研究グループは、サブクラス I SnRK2が水分欠乏ストレスに応答してVCSをリン酸化する主要なタンパク質キナーゼであることを見出しました。この結果から、サブクラス I SnRK2は水分欠乏ストレス時にVCSのリン酸化を介して何らかの分子的・生理的応答を制御していることが予測されました。

さらに共同研究グループは、サブクラス I SnRK2が水分欠乏ストレス時にVCSのリン酸化を介してmRNA分解を制御しmRNA蓄積量を調節している可能性を検討しました。まず、サブクラス I SnRK2遺伝子を欠損したsrk2abgh変異体とVCS<遺伝子の発現量を低下させたVCSノックダウン植物体(注4)を用いてトランスクリプトーム解析(注5)をおこないました。すると、srk2abgh変異体およびVCSノックダウン植物体において、水分欠乏ストレス時に発現量が減少する遺伝子群が野生型株と比較して高レベルで発現していることがわかりました。そこで、これらの植物体においてmRNA分解がどのように影響を受けているのかを解析した結果、水分欠乏ストレス時に発現量が減少する遺伝子群のmRNAの分解が阻害されていることが見出されました。以上より、水分欠乏ストレス時にサブクラス I SnRK2がVCSのリン酸化を介して不要なmRNAの分解を活性化していることが明らかになりました。さらに、srk2abgh変異体およびVCSノックダウン植物体はストレスのない正常な状態で生育させると野生株と同様に生育するのに対して、水分欠乏環境下で生育させると野生型株よりも顕著な生育阻害を示しました(図1)。これらの結果から、サブクラス I SnRK2とVCSによるmRNA分解制御は、不要なmRNAの分解を促進することで植物の成長を促進する役割を果たしていると考えられました。

以上より、ABA活性化型のサブクラス III SnRK2はストレスによる転写誘導を活性化するのに対して、サブクラス I SnRK2はVCSのリン酸化を介して、水分欠乏ストレス時に不要なmRNAの分解を活性化することで植物の成長を促進することが明らかになりました(図2)。サブクラス I SnRK2およびVCS種子植物で高度に保存されていることから、本研究で明らかとなったサブクラス I SnRK2とその下流で働くVCSを介したmRNAの分解調節機構は、イネやダイズといった作物でも保存されていると考えられます。そのため、サブクラス I SnRK2やVCSをターゲットにした分子育種やこれらの活性を調節する薬剤の開発等により、干ばつ等による水分欠乏ストレス時の成長や収量を向上させた作物の開発への応用が期待されます。