相対湿度管理

月刊 現代農業2016年11月号 早朝の換気幅を狭めて萎れが激減、収量激増&食味アップ

 

早朝の換気幅を狭めて萎れが激減、収量激増&食味アップ

高知・久保英智

しっかり乾かすのが当たり前!?

 17年前にUターンして、春野町(現高知市)で高糖度トマトの栽培を始めました。当初は15aのハウスでの栽培でしたが、少しずつ規模拡大して現在約1haになりました。

 高糖度トマトといえば、(普通のトマト以上に)かん水量を極限まで抑えて糖度を上げるという栽培方法で、就農当時はそれが当たり前だと思っていました。収量は平均6t/10a程度でしたが、一般的なトマトよりも単価が高いため、それも当たり前だと思っていました。ところがある年に価格が下落。それをきっかけに、糖度を落とさずに、どうにか増収したいと考えるようになりました。

 しかし、いざ収量アップに取り組もうにも、「しっかり換気して水を絞る」というトマト栽培の固定概念がどうしても邪魔をします。そんな時に、ユリ農家の友達がハウスの新しい環境制御技術のことを教えてくれました。友人はすでに手応えを感じていて、以来、二人三脚での試行錯誤が始まりました。5年前のことです。

 

朝からいきなり全開だった

 最初に勧められたのが換気方法の変更です。以前はハウス内をとにかく乾かす(空中湿度を下げておく)ことを基本にしていました。春なら朝、ハウスに行ったら天窓とサイドを全開(秋も半開)。多くのトマト農家がそうだと思いますが、灰色カビ病に神経を尖らせて、朝からとにかく乾燥させないと、病気が蔓延すると決め付けていたのです。これ、トマト農家の「あるある」です。

 今考えると、ハウス内に冷えて乾いた空気が一気に入って、トマトの葉の気孔が閉じていたんだと思います。蒸散できないので吸水もできなかったんでしょう、以前は葉先の萎れもよくありました。

トマトハウス内の温湿度変化
トマトハウス内の温湿度変化
これは3月の管理だが、10月の目標温度推移も同じ。3月と10月は日の出時刻も日平均日射量もほぼ同じため。4月以降、日の出が早くなり日射量が増えたら、換気幅を少し広げて、午前中の急激な温度上昇を防ぐ。

「ちょっと換気」で少しずつ抜く

 その換気方法を改め、温度で換気するというよりも、湿度を気にかけて管理するようにしてみました。朝は日の出ごろに天窓を20%程度開けて、湿度をゆっくり抜いていく(相対湿度を下げる)イメージです。

 換気方法を変えると、以前と比べて日中のハウス内が過ごしやすくなりました。適度な湿度が保たれて、トマトの気孔が開いて蒸散量が増え、気化熱で周りの温度が下がるのでしょう。換気幅を小さくしたら暑くなると想像していたのに、まったく逆の現象でした。

 ただし、春先以降は日射量が多くなり、午前中の温度上昇率がどうしても高くなります。湿度にこだわり過ぎると温度が急上昇して失敗するので、秋に比べて朝の換気幅を少し広げています。

 

積極かん水が必要になる

 トマトの蒸散量が増えたせいか、今度はそれまでの少ないかん水量がどうしてもネックになり始めました。地上部をうまく管理すればするほど、蒸散量が増えて、かん水量を増やさないと生長点や果実に水分が足りなくなってしまうようなのです。

 そこで、徐々にかん水量を増やしていきました。今では、当初の4倍以上のかん水量になっています。養液土耕システムで、かん水と施肥を自動化していたので、施用量を把握しながら増やすことができました。

 おかげで葉先の萎れもだいぶ減って、春先では遮光回数も減りました。水と一緒にカルシウムが運ばれるせいか、尻腐れ果などの障害も減りました。

収量1.5倍で美味しくなった

 その結果、トマトの収量は約1.5倍の10t以上になりました。かん水量を増やしたことで下がると心配していた糖度はというと、糖度八度を超える割合は以前と比べてむしろ増えました。また、以前の酸が少し強い食味から、糖酸度のバランスのよい旨味の増したトマトができるようになりました。じつは私、あまりトマトが好きでなかったのですが、そんな自分でも食べられる味になりました。

 換気方法を変えたおかげで光合成産物が増えて、トマトが以前よりも養分を蓄えることができるようになったためだと思います。また、かん水量を増やしても果実が水っぽくならないのは、蒸散や光合成にそうとう使い切るためだと思います。

お金をかけずにここまでやれる

 環境制御の勉強を本格的に始める前に、ほとんどお金をかけずにここまでできました。その後、プロファインダー(156ページ)を導入し、ハウス内の環境変化を本格的に見える化しました。それによって、固定概念に縛られた、感覚的な以前の管理がいろいろ間違っていたことが、よく理解できました。また、温度の上がり方など、わが家のハウスそれぞれの特性を理解しながら管理できるようにもなりました。全体的に品質が改善し、販売面で有利になったと思います。

 さらに去年から、炭酸ガス施用(生ガス施用)にも挑戦中です。光合成量が増えて、収量も品質ももっと向上すると期待しているところです。

 

 最近は各産地で環境制御の勉強会も増えて、いろいろな取り組みが始まっていますが、理屈がわかれば、それほどお金をかけなくていいと思います。大切なのは、作物を毎日観察することと、今までの固定概念を払拭する勇気です。

 自分自身も最初は、換気方法を変えるだけでそこまで変化があるとは信じられないまま、まずは一棟のハウスで取り組み始めたのを覚えています。友達のいうとおり、ダメもとでやってみたらトマトの樹姿のあまりの変化に驚いて、それ以来、従来の管理を少しずつ見直してきました。

 これからも、経験値を上げて、多角的に物事を見られるように、頑張っていきたいと思います。